読了『対話型組織開発――その理論的系譜と実践』
『対話型組織開発――その理論的系譜と実践』を読んだので、感想でも書こうと思います。
- 作者: ジャルヴァース・R・ブッシュ,ロバート・J・マーシャク,エドガー・H・シャイン,中村和彦
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2018/07/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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率直に言って、めちゃくちゃ面白い本でした。
組織に関連するコンサルタントや研究者などの専門家が直接のターゲットになるとは思いますが、経営者やマネージャーとして働く方も大いに参考になるのではないでしょうか。
組織に対して仕事をしている人なら、きっと楽しく読めると思います。
残念ながら、「対話型組織開発とは何か」を適切に説明するのは、600Pを超えるこの本を読んでも難しく感じます。
対話型組織開発は特定の手法というより、考え方やあり方であって、「こうやれば対話型組織開発だ」と説明できるものではありません。
ただ、それだけだと謎の本になってしまうので、私の持てる表現で可能な限り説明努力をしてみたいと思います*1。
まず、組織開発には、診断型組織開発と対話型組織開発の2つがあると筆者らは述べています。
診断型組織開発では、組織において「何か正しいもの」があって、その通りになっているか調べ、正しくなっていなければ修正します。
例えば、残業が少ないことは良いことであり(=正しいこと)、残業が多いことが分かったので(=調査結果)、残業を減らす制度を作る(=正解へ修正)という考え方は、極端ですが診断型組織開発の考え方です。
お医者さんが患者を診断し、処方箋を出すイメージです。
しかし診断型組織開発で問題になるのは、観測される特定の"事象"が、組織で働く一人ひとりの"現実"とは限らないことです。
例えば、残業しまくってる会社から転職して来た人と、全くしない会社から転職してきた人では、残業量の考え方が違ったりします。
残業量が平均+1時間になったとしても、多いと思う人も少ないと思う人もいる。全く同じ事象を見ているのに、人によって解釈が異なると言う現象が起こります。
なぜなら、前職の経験や、先輩が飲み会でする昔話、チャットで巻き起こる経営陣への批判、喫煙室で入ってくる会話など、様々な情報から人間は価値観を醸成するからです。
こうした前提を踏まえて、対話型組織開発は対話を促します。
互いに違う価値観や解釈を持っていることを理解し合い、その上で誰かの価値観を選ぶのではなく、Win-Winな新しい価値観を生み出すことに注力します。そして、それを今後の価値観として使っていきます。
結果として、残業時間が+1時間になるのか、フレックス制度になるのかは、対話の前には誰にも分かりません。対話に勝者も敗者もおらず、ただ単に望ましい未来を作っていくという共同作業があるだけです。
「全能な正解なんてない」から、「お互いが望む未来を生み出して正解としようとする」のが対話型組織開発の考え方です*2。
さて、対話型組織開発がふんわり分かった(!?)ところで、本の見所の話に入りましょう。
この本では、対話型組織開発の理論から、コンサルタントが実践する上での考え方まで、かなり幅広いトピックを扱っています。
まずは1章〜3章の理論に関する話がのっけから最高に面白いです。個人的にはとても新鮮な考え方で、考え方が読めば読むほど変わって行きました。
組織開発に縁があまりない人や、社会構成主義などに触れてきていない人には、読み下すのが大変な鬼門の章でもあるかと思います。私も大変でした…。
ただ、知らなければ知らないほど、今までのモノの見方が大きく変わる章なので、ぜひじっくり楽しんで読んでほしいです。
そして最高にシビれるのが、7章の"関わりの複雑反応系プロセス"。
「今の組織や日常の行動の理解を深める」というこの章のテーマ、一見すると地味すぎます(笑)
最初の方で「リーダーは過去も現在も大して分かってない、未来なんて分かってるわけない」的な古典的っぽく見えるdisりがあったりして、正直「変な人出てきたな〜」と思ってました。しかし最後まで読むと、新鮮な気持ちで「普通の人は過去も現在も理解してるわけがない」と思ってしまうほど、自分の見方が変わっていきます。
最初は当たり前の事を言ってるとしか思わなかったのですが、後半に行くに従って何を言わんとしているかが理解できてきてドキドキ。最後の腹落ち感たるや、ミステリー小説を読んでいるかのようです。
再帰的に(メタ的に)考えることによって、自分達の身振りや日常の行動が何を表しているのかより理解すること、そしてそれが引き起こす体験について、など。非常に示唆に富みます。
メタ的に認知する力や質問が何を引き起こしていくかに対する洞察が深まる、クレイジーな章です。
後半の9章からは、あなたがコンサルタント(に近い職種)であれば、読むべきです。
10章のレディネスに関する話、15章のフォローアップに関する話は、コンサルタントが考えがちな「あの顧客はやる気がない」とか「あの人達は抵抗勢力だ」と言った思考から脱却させてくれます。
9章からはほとんどの章で、コンサルタントの日々の実践において頭が痛くなる展開について触れていて、単純にコンサルタントの勉強として役に立つと思います。
という感じで、オススメ度MAXなのですが…1つだけ難点を挙げるとすれば、分厚く、かつ前半が難しいところですね。
誤解のないように言っておきますが、かなり平易に書いてくれているので、前提知識がなくても読めます。日本語訳も相当頑張られていると感じます。
ただ、初学者がサラーっと読める部類の本ではありません。知らない単語は雰囲気で読んでもいけますが、内容を理解するのは大変です。
私は知りたい単語は調べてたりもしたので、最終的に読了するまでに15時間以上かかったと思います。600P以上あるんで…。
本が分厚かったので感想も長くなってしまったのですが、とにかく最高に面白かったので、ぜひ手に取って頂きたい一冊です。
知識欲が出てきたので、しばらく色々な本読んで行きたいと思います。