繰り返す石ころ

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全員の意見を聞いてたら何も進まない、は本当か?:読了『フューチャーサーチ』

関係者が増えると決まるものも決まらなくなって動き出せない…みたいな経験、社会人あるあるですよね。
皆様いつも本当にお疲れ様です。

皆様はそうした経験から「可能な限り少ない人数で決めたい」という願望や、密室での議論という誘惑にかられている今日この頃なのではないでしょうか。

今回は、こうしたテーマにヒントを得るため、"多様な関係者"の巻き込みを見事に"実行"に変換している『フューチャーサーチ』をご紹介をしたいと思います。

フューチャーサーチ ~利害を越えた対話から、みんなが望む未来を創り出すファシリテーション手法~

フューチャーサーチ ~利害を越えた対話から、みんなが望む未来を創り出すファシリテーション手法~

  • 作者: マーヴィン・ワイスボード,サンドラ・ジャノフ,ヒューマンバリュー,香取一昭
  • 出版社/メーカー: ヒューマンバリュー
  • 発売日: 2009/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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フューチャーサーチは3日(半日、1日、半日の構成)の日程で行われるワークショップの手法です。
ちなみに、本の副題には「利害を越えた対話から、みんなが望むファシリテーション手法」と書かれてあります。

フューチャーサーチの特徴として、ワークショップの日程から参加者の構成まで、ほとんどの行為に実践と理論に裏打ちされたルールがあります。
ゆえに、日程やプログラム、準備物などはほぼ変更できません。

ルールの中で絶妙なのが参加者の構成です。
フューチャーサーチでは、テーマに関係する人が広く集められます。
ワークショップの人数規模は30〜70人程度ですが、最も良いのは64人とされています。ここも細かいですが、8人が8テーブルで64人になるのが最も良い構成とされます。
そして、何と64人の25%〜40%の人は、組織の外部から集めることが求められます。

例えば、あなたが顧客のサポートを行う部署の部長だったとしましょう。
あなたは「最高のカスタマー体験を作る」というテーマを掲げました。そうすると、フューチャーサーチ流の構成では以下が考えられます。

  • 顧客(8名)
  • マネージャー(8名)
  • 営業部(8名)
  • 製品開発部(8名)
  • コールセンターのアルバイト(8名)
  • コールセンターの社員(8名)
  • 家族(8名)
  • 経営者、株主(8名)

一般的に「最高のカスタマー体験を作る」というテーマで会議をするとき、「家族」や「株主」を呼んだりしません。「顧客」も呼ぶ人は少ないでしょう。
しかしフューチャーサーチが求める参加者は、「このテーマに関係する人全員」です。関係者の考え方として、以下の3つが紹介されます。

  • 情報をもっている人
  • 実行に移すための権限や資源をもっている人
  • 起きる結果から影響を受ける人

こうした多様な人がいるからこそ、多様な現実が理解できるようになり、望ましい未来を描くことができると著者は考えています。
また、多様な人が参加していれば、アクションの実行時に広範囲のアクションが期待できます。
フューチャーサーチでは、アクションを「この会に参加していない人に交渉したりせずに、今すぐ実行できるもの」に絞ります。参加者で実行できるものだけを合意して、合意できない事については決めません。合意できない事項について後日話し合うなどはありますが、まずは合意できるリストを作成して動き出すことに注力します。
この時、多様な人が集まって話したり実行内容について支援を受けることができれば、今すぐ交渉なしに実行できる事が圧倒的に増えるわけです。

このように、フューチャーサーチは強烈に"今すぐに実行"することにフォーカスしています。
「利害関係の狭間で何も実行できない」といった状態から、「各自ができることを今からやる」という状態に変質させるために非常に練られたプログラムになっているわけです。

良くも悪くも構造的で、成功の条件(本当にこの名前のリストがあります)を揃える事が求められます。柔軟性はありませんが、大部分が準備段階で設計されるものなので、成功の条件が達成できるのであれば非常に良いワークショップにできると思います。
参加者の多様性を持たせる部分と、3日の合宿形式の部分の合意が一番山場だと思うので、そこがいけそうであれば前向きに検討したい手法です*1

ちなみに、全参加者の日程を押さえて会場の予約をする必要があるため、準備期間は3ヶ月から6ヶ月程度必要です。

一応今回も書評なので本自体の話をしておくと、フューチャーサーチをやるのであれば読んでおいたほうが良いと思います。というか細かいルールに相当の意図が組み込まれているので、読まないと地雷を踏む危険性が高まると思います。
個人的には実施する予定はないのですが、細かいワークショップの設計の意図がよく分かるので、非常に勉強になりました。そういったワークショップに込められた理論や意図を理解する意味でもかなり面白い本になっていると思うので、オススメです。
著者はとにかくよく考えてます。そして考えるだけでなく、1つ1つの行動を検証し、その知見を余すところなく紹介してくれています。有意義で価値のある本だと思います。

それにしても、ヒューマンバリュー社は良い本を翻訳されているなーという印象です。
別に一次ソース原理主義者というわけでもないのですが、こうやって本家本元の書籍を訳してくれると、日本語で学んでいる人間としては一次ソースに簡単に当たれるので大変ありがたいですね。

*1:逆説的になるのですが、実際はテーマに対して熱意を持ってコミットしている人が主催者であれば、参加者調整は問題にならないと思います。何故ならば、日程は後ろにズラせば調整が効きやすい項目だからです。本当は実践者が外部の人を呼ぶことや大規模な対話に恐怖を持っていて、日程調整を盾にしているのです。もしコンサルタントとして関与しているのであれば、そうした障害があっても実現したいテーマを引き出す事が重要であると思います。