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みんなで話して、何を得たいのか?:読了『ホールシステム・アプローチ』

『対話型組織開発』、『入門 組織開発』ときまして、具体的に対話型組織開発の手法の詳細に…行く前に、手法をざっと眺められる本の紹介をしたいと思います。
『ホールシステム・アプローチ』です。

ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法

ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法


この本では、ワールド・カフェやアプリシエイティブ・インクワイアリーなど、多数の人での対話手法が紹介されています。
今風に言うと対話型組織開発の実践となる手法が紹介された本です。

本のタイトルもになっている「ホールシステム」ですが、この文脈で言う「システム」とは人の集まりを指しています。
例えば、都市の住人、仕事の関係者(お客様なども含みます)、会社、部署、チームなどがシステムです*1
「ホール」はwhole(全体)のことなので、ホールシステムというのは、「(何らかのテーマに)関連する人々の全体」という意味です。

この本は、そんなホールシステムで話し合うための複数の手法(これらを総称して、ホールシステム・アプローチと本書では名付けています)について説明してくれる本です。
ホールシステムで話し合うとなれば参加者は多くなりますので、数十から千単位の人数規模に耐えられる手法が紹介されています。

個人的には、ホールシステム・アプローチの意義の1つは、会議の内容や結果の質ではなくて、特定のテーマに対して参加者のコミットメント、つまり個人の自主性を引き出すことだと考えています*2
自主性を引き出し、多様な意見の相互理解、組織の自己改革力、環境への適応性、効果的なコミュニケーションなどを生み出すための手法だと思っています。
一部の人が組織に対するコントロールを強くすればするほど、組織は硬直し、個々の自主性はなくなっていきます。逆に、自主性を引き出そうとすればするほど、コントロールが効かなくなっていきます。
ホールシステム・アプローチは自主性を引き出そうとするため、必然的にコントローラブルではなくなります。結論ありきの会議や演説ではありません。
そうした性質を理解した上で、目的を持って使用する事が求められます。

この本でも、そうしたホールシステム・アプローチの性質について配慮された文章になっています。
性質を理解しつつ、ざっと様々なアプローチを理解したい、比較検討したい、というニーズには非常にマッチした本だと思います。

ワールドカフェ、AI、OST、フューチャーサーチといった代表的な手法について書かれており、各章がざっと理解するにはちょうど良い量で分かりやすく書かれています。
嬉しいのは、単なるやり方を紹介するだけでなく、各手法の根底に流れる価値観や原則について触れているところですね。各手法はそれそれ重要視する考え方があり、それが手順として表層に出てきているので、是非考え方の部分は飛ばさずに読んで頂きたいところです。

事例については、会社組織の変革を考えている人には多少印象が薄いかもしれません。対話型組織開発の事例は非常にヒリヒリする血みどろの戦い感のあるものも多かったですが(笑)、都市計画の話であったり、企業事例もライトな事例な印象でした。
出版が2011年なので、今であれば熱い企業事例も増えていそうな気がします。

さて、この本で複数の手法を眺めたら、次は手法を絞って詳細に学んで行きたいところですね。
次回は『フューチャーサーチ』 をご紹介したいと思います。

*1:正確に言うと人間の個体など単体のものもシステムなのですが、話がややこしくなるので、気になる人は『入門 組織開発』などを読んでもらえればと思います。

*2:会議での成果物が実際にどれだけの成果を生み出すのかについてはまた別議論という事で。